身体操作における『筋力』『瞬発力』の考え方

身体が上手く使いこなせるようになると、そうでない場合と比べて力が発揮しやすくなるだけでなく、動作が滑らかになり、スピードも速くなります。

それは単純に筋力がアップしたからなのか?

それとも他の要素があるのか?

他の要素があるとすれば、それは一体どのような要素が関係しているのか?

今回の記事の中でそれらを解き明かしながら、動作のパフォーマンスを高める方法を考えてみましょう。

個々の筋力よりも全身運動として発揮されるパワーが大事

実際に動作の中で発揮されるパワーは、筋力計で測れるようなものはほとんどありません。そもそも筋力計などの計測器で測れるのは非常に単純化された動作や要素がほとんどであり、複雑かつ連続的な動作ではそもそも数値化出来るような単純な要素では測定不可能です。同様にウェイトトレーニングで持ち上げられる重量が上がったとしても、その効果は限定的です。ウェイトトレーニングも実際の動作に繋げながら実施してはじめて効果が現れるものと心得ておきましょう。

また個々の筋力がアップすることと動作のパフォーマンスがアップすることはイコールの関係にあるものでもありません『筋力』とは動作を構成する要素の一つに過ぎず、動きの連動性を考えた上でトレーニングに取り組まないと逆効果になりうるのです。

※個々の筋力強化が不要なわけではありません。

利用できるものは「すべて」利用する

身体を動かすためには筋肉が必要なことは言うまでもありません。筋肉を収縮させられなければ、骨も何も動かすこと出来ませんが、逆に筋肉を収縮させることができるのであれば同時に他の要素も筋肉の収縮とともに動作に利用することができるようになるのです。筋肉を収縮させる以外にどのような要素が利用可能なのか考えてみましょう。

筋肉の脱力

筋肉は力を入れるだけが能ではありません。力を入れた状態から脱力することによって動き出すことも可能です。後ほど説明する『抜重』にも瞬間的な脱力は不可欠な要素です。

筋肉に力を入れて身体を固めるトレーニングばかりしていて、抜くトレーニングをしていないと、力の抜き方が非常に苦手となる場合があります。力がうまく抜けない筋肉は、筋力を発揮させにくいだけでなく伸びにくく、スピードも遅くなりがちです。

「力感が強い」というのもこれと同じです。力が入りすぎているように見える動きは、やっている本人としては「がんばって動こう」としている感覚が強い反面、実際の動きとしては硬く、遅くなってしまいます。

そもそも筋肉(骨格筋)は骨を動かすためにあります。その骨をうまく利用する、つまり筋肉で発揮させた力を骨の中を通すように変換させることができると、筋肉だけで力を発揮する以上に大きな力を発揮できるようになります。

伸縮性のある筋肉よりも、硬く強い骨をうまく利用した方が力が伝わりやすいのは言うまでもありません。

また筋肉は伸びるときも縮むときも力を入れている限りエネルギーを消費します。その点、骨はどれだけ使っても筋肉のようにエネルギーを消費しないため疲労感の軽減、持久力の向上にも繋がります

重力・体重

ヒトは地面に立っているだけ、つまり重心位置が地面から離れている段階ですでに『位置エネルギー』を持っています。この位置エネルギーを利用して初動に繋げようとするものが『抜重』です。

足裏で支えている面(支持基底面)内に重心があると姿勢は安定しバランスが取りやすくなりますが、この支持基底面から重心をあえて外すことによって身体には倒れようとする力を働かせることができます。この倒れそうになる力も抜重同様に初動などに活かすことができます。

前方へダッシュしている時に、重心を後方へ移せばブレーキとしても利用可能ですね。

慣性

動き始めた物体は、その動きを続けようとする力が働きます。これが「慣性」です。

この慣性に対してブレーキをかけるのではなく、慣性による動き・力をうまく受け流し、そのまま次の動作に繋げることが可能です。

もちろん動作の中でブレーキをかけないといけない場面は多々ありますが、あらゆる動作において一回一回動くたびにブレーキをかけていては、身体への負担が大きくなるだけでなく、動作の切り替えの際に動きが途切れてしまいます。つまり瞬間的な静止状態を作ってしまうということです。

道具は扱うだけでなく、「扱われる」感覚も大事

ラケットやバット、竹刀など自分自身の体でないものは、骨と違って筋肉によるコントロールが直接的に働きかけられないため、よりその慣性を強く感じやすくなります。同時にその動きにブレーキをかけようとすると身体への負担も大きくなります。

そのような場合、慣性をうまく受け流すような動作を行うと、道具を扱うのではなく、道具に扱われるような感覚で身体を動かすことができるようになります。この受け流す動きは手足末端の動きだけでは不可能であり、体幹部分をいかに柔軟かつしなやかに扱えるかがポイントです。

反動動作

反動動作とは、目的とする動作の直前に逆方向の動作を行うことを言います。筋肉をすばやく力強く働かせるためには、この反動動作が非常に重要です。

例えば上に跳び上がろうとするときに、止まった姿勢のまま跳ぶと高く跳べないのに対して、跳び上がる直前に地面に向かって沈み込む動作をするとより高く跳べるようになるのもその一例です。他にもバッティングでのタメ、ゴルフのバックスイングなども同様です。

武術では、「ねじる」「うねる」といった動作は相手に読まれやすく、「居着く」と同様にあまりよく思われる動きではありませんが、スポーツ動作では非常に重要な要素の一つです。実際には武術の中でも反動動作を全く使っていないわけではなく、動作が洗練されていく過程で衣服などで見えにくい体幹部分の動きで反動動作が作り上げられ、目に見えないような素早く小さな動きに収斂されていると考えると良いのではないかと考えています。

「抜重」も実際にやってみると理解しやすいかと思いますが、反動動作を作り出すきっかけになっていることがよく分かります。

この反動動作は、筋腱複合体による弾性エネルギーの蓄積と放出によるものです。スポーツバイオメカニクスの世界では、SSC(Stretch- Shortening Cycle)と呼ばれる神経筋機構です。

地面からの反力

反動動作にも繋がるものですが、地面に対して踏み込むことでその反力が生じ、その力をうまく身体で受け止めて自らのエネルギーに変えることが可能です。

このとき力を余さず地面からの反力すべて推進力に変換させられるような身体の状態、すなわち『軸感』が非常に重要となります。

相手の力

これは相手と直接的、間接的に触れ合う競技に限るものですが、相手の力に対抗しようとするのではなく、相手の力をうまく受け流し自分自身の力として利用するものです。これは合気道的な要素でもあります。

剣道での鍔迫り合いでも「力での押し合い」をしている限り、自分よりも力の強い相手には勝つことができません「柔よく剛を制す」のように、力にたよらない力の捌き方を身につけられるとそのような相手に対しても勝つことができるようになります。

身体の触れ合う部分に対して相手は身体のどの部分を力源に、どのような方向に力を加えようとしているのかを見極め、相手の力に抗うのではなく自分のいなしたい方向へ自然と誘導するような身体づかいを身につけましょう。

相手に動きを読まれないようにする

傍目にはゆっくりと見えるような動作も、目の前に対峙する相手がいてその相手が予期せぬような動きは、素早く感じさせることが可能です。

その点力感の強い動きは「今から動くぞ!」という準備動作が非常に見えやすくなるため、相手にはとっては動きの予測が容易であり、その後の動作がどれだけ速くても感覚的には遅く捉えられてしまいます

『抜重』や『前/後脚はずし』は、「踏ん張ってから動く」という日常的な動作から外れた非日常的な動きであるため視覚的に捉えにくく、相手にとっての感覚的にも素早く感じられるのです。

『感覚力』を養うことが必要

上記すべてをうまく使いこなそうと思ったときに、ただ単に競技動作の練習を反復しているだけではうまく身につかないことがあります。

目的とする動作はどのような要素で成り立っているのか?
その動作はどのような意識を持ち、どのような感覚を頼りにすれば再現可能なのか?
そもそも理想とする動きを再現できる能力を持ち合わせている身体なのかどうか?

目的とする理想的な動きがどのようなものかを身体で理解することができなければ、ただ今まで通りの動きを繰り返すだけの反復練習になってしまいかねません。また理想的な動きの感覚を身につけるためにはまずはそのような感覚をしっかりと知覚できる身体、そのような動きを再現できる身体である必要があります。

適切な技術を身につけるためにも、まずはそれに見合った身体づくりから始めていきましょう。何事にも近道はありません。適切な道筋が見えてこればあとは丁寧に一つ一つ土台から順に身につけるのが最短の道です。

自分自身の身体と動きの現状を把握し、理想とする動作に対して何が足りないのか、どのようなトレーニングに取り組めばその要素を身に付けられるのか、これらをTHE コツ™️ TRAININGの記事や動画でもご紹介していきます。

まだまだ記事数も動画数も少ないですが、是非また定期的にチェックしてみてくださいね。

THE コツ™️ TRAINING
堤 和也

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