体重が重たくなると動くときの身体も重たく感じるのはもちろんですが、体重が変化していないのに身体が重たく感じていませんか?
他にも以前は軽々とこなせていた動作が、どうもしんどい、疲れやすいと感じていませんか?
それは力を入れるべき筋肉に力が入らず、力を入れる必要のない筋肉が余計な働きをしている証拠です。
今回の記事では、重たくなった身体をもう一度軽く扱えるようになるために必要な考え方をお伝えします。
重さの感覚は『筋肉が感じる負荷』で決まる
物を持ったときに重たく感じるのか/軽く感じるのか、その物体の質量・重量だけで決まると思っていませんか?
例えば、水で満たされたバケツを持っている状態をイメージしてみましょう。
①両手で胸の前に抱えるように持っている
②身体から離れたところで、両手で持っている
この①と②どちらの方が重たく感じると思いますか?
答えはもちろん②ですね。
実際にバケツの中の水の量は変化していないのに、重さの感覚は変化する。これは単純な「テコの原理」でもありますが、このときに掛かる筋肉への負荷がそのまま重さの感覚として認識されます。
つまりテコの原理などをうまく使って筋肉への負担を減らしながら動けると身体は軽く感じ、筋肉への負担が大きなまま動くと身体は重たく感じるのです。
ではトレーニングによって筋肉に負担をかける場合には、どのように考えれば良いのでしょうか?
ウェイトトレーニングはあえて重く感じさせる動きをしている
近年ではウェイトトレーニング(錘を使ったトレーニング)の方法や、レジスタンストレーニング(チューブなど抵抗・負荷を加えたトレーニング)の方法も色々アップデートされていますが、ボディビルディングのように個々の筋肉に負荷をかけてトレーニングを行う場合には、ターゲットとする筋肉に最も負担が掛かりやすいポジションでトレーニングを行い筋肉を肥大化させる場合がほとんどです。
わざわざ重たく感じやすいところでトレーニングを行い、筋肉のボリュームアップを目指すわけですね。
このようにして身につけた筋力は、一つ一つの筋肉で発揮される力は強いものの、全身運動となった場合に個々の筋肉の繋がりが弱く、力感(力が入っている感覚)が強いだけで発揮されるパワーは弱いといったことが多々あります※。
※もちろん筋肉量の少ない人よりも多い人の方が力が強くなるのは確かですが、筋肉を大きくすれば、動作の質も高まるのかというとそうではないという意味です。比例関係にはないということです。
外見的に大きく見せる筋肉のトレーニングと、効率よく身体を使いこなす筋肉のトレーニングとは、それぞれ身体の扱い方が異なるということですね。
全身が上手く使いこなせていることを前提に、個別の筋肉が鍛えられれば、全身運動としても発揮できる力は増加します。動作の質を高め、全身運動としてのパワーを強くするためには、個々の筋トレよりもまず先に身体を適切に扱えるようになるためのトレーニングに取り組みましょう。
では、筋肉への負担を減らして効率よく動くにはただただ脱力してさえいれば良いのでしょうか?
うなだれた姿勢は「余計に」しんどい
慢性的な運動不足や普段身体を動かす習慣のない方は、気付かぬうちに背中を丸くしうなだれたような姿勢を取ることが多くなります。
本人的にはその方が「力が抜けて楽だ」ということになるのですが、実際にはそれ以上に楽な姿勢があることを知らない/忘れてしまっている場合がほとんどです。
うなだれた姿勢ばかりとっていると結果的に、うなだれた姿勢を支えている筋肉ばかりが疲労しやすくなります。姿勢が悪いと首・肩・腰・膝が痛みやすくなるのもそのためです。加えて適切な姿勢をとるための筋力までもが落ちてしまい、そのような筋肉を働かせようと思うと普段使いこなせていない筋肉を働かせることとなるため「いい姿勢はしんどい」という認識になるのです※。
※同時に「良い姿勢は背すじを伸ばすもの」という認識があると無駄に筋力に頼ろうとするためさらにしんどくなりやすい…
年齢を重ねるうちに姿勢が悪くなり、高齢者に特有の姿勢になりがちなのは、運動習慣がどんどん薄れ、行動範囲が狭くなっていくことで、骨を適切に配列させた良い姿勢を保ちながら楽に効率よく動くことを忘れてしまうために起こるものです。
※畑仕事などされている場合、うつむいた姿勢が長時間続くというのも原因の一つです。
ご高齢でも運動習慣のある方は無意識的に身体を効率よく扱おうとするため、姿勢もよく年齢を感じさせない方が多くおられます。
『骨』を使えば筋肉は楽になる
骨を上手く使う、骨を適切に配列させるということは、重力に抵抗する、力を対象物に加える際などに、その力を『骨の中を通す』ということに他なりません。
この骨の中に力を通すために最適な筋肉の働かせ方ができると、これまで「しんどい」と感じていた動作が一気に楽になることがあります。少なくとも筋肉だけに頼っていたときよりもしんどさを感じなくなるはずです。
これが俗にいう『コツをつかむ』ということです。コツをつかむと目的とする動作が楽にスムーズに行えるようになるのはそのためですね。
しかしこのコツというものは、一言聞きかじっただけで身につくようなものはほとんどありません。適切な身体の使い方(コツをつかんだ動作)を感覚的に理解し、その動きのパターンを小脳に記憶させるために反復して、無意識的に取り出せるレベルまで習熟する必要があります。ここまでできてはじめて『コツをつかんだ』と言えるのです。
骨を働かせるインナーマッスル
骨の中に上手く力を通すために活躍するのが主に『インナーマッスル』です。
インナーマッスルは主に身体の深部に位置することから、骨や関節に最も近い位置で働き、かつ一つ一つの骨を繊細かつ器用に操る働きがあります。ただしインナーマッスルだけ使えばよいというわけではなく、インナーマッスルを優位に働かせた上でアウターマッスルを働かせるのが、効率的な身体の使い方への第一歩です。
インナーマッスルが優位に使いこなせるような動きが身につくと、骨を使いやすくなるだけでなく、地面からの反力も受け取りやすくなるため、見た目の筋肉はそれほど大きくなっていないにも関わらず、発揮できる力は非常に大きくなります。体幹部分の筋肉がしっかりと付くわりに、手脚は細長く見えるようにもなるのも特徴です。
『骨感覚』は『力感』をなくすほど身につく
アウターマッスルの収縮感(力感)に頼りすぎた動きをしていると、『骨感覚』はどんどんと希薄になりがちです。逆もまた然りで、力感をなくすほどに『骨感覚』がつかみやすくなります。筋肉の力感に頼らず、身体各部位をどのような位置関係に置けば「楽に」「安定して」「スムーズに」「力強く」動けるのかを知ることが、そのまま骨感覚に繋がります。
自分自身の身体の中にどのような骨がどのように存在しているのか、今どのような位置関係にあるのかは、何となくでも良いので想像できるようにしておくとより効果的にコツをつかむことができるようになります。
コツがつかめると『軸感覚』も生まれる
動きの中で「軸を保つ」「軸がある」などと表現されることがありますが、動きのコツが掴めてくるとこの『軸感覚』も同時に生まれやすくなります。
要するに身体を適切に扱いこなすことができるようになれば、動いている本人も外から見ている第三者も自然とそこに軸を感じるようになるということですね。軸を無理やり作ろうとして身体を固めてしまうのではなく、身体の中に適切な力の通り道が出来上がっていればそれが軸だと考えましょう。それで概ね間違いありません。
自分自身の身体の感覚力を高め、最も効率の良い動きを探し求めればその中に軸を感じられるようになります。
インナーマッスルも使いはじめは「しんどい」
インナーマッスルをうまく使い、力を骨の中を通すことができると楽に動ける、軸も生まれると書きましたが、元々インナーマッスルがうまく使い慣れていない場合、そのインナーマッスルを働かせるときには通常の筋トレのようなしんどさを感じます。
筋肉は普段から使いこなしてこそ、疲労感を感じにくくなるもの。コツをつかむための動きもはじめはしんどいですが、慣れれば楽に動けるようになります。
そして楽にこなせるようになったときには、身体と動きが一段階レベルアップしているはずです。
THE コツ™️ TRAINING で紹介しているトレーニングはすべて、ここまでお伝えしてきた上記の条件を満たすようにトレーニングを構築しています。
細部に渡って身体の感覚を研ぎ澄まし、一つ一つの注意点を意識しながら丁寧に、継続的に取り組んでみてくださいね。
THE コツ™️ TRAINING
堤 和也