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身体『感覚力』を高める方法

トレーニングという言葉を聞いたときに真っ先に思い浮かぶのは「筋力」トレーニングですよね。通称「筋トレ」は筋肉に負荷を掛けて発揮できる筋力を強くし、筋肉を大きく肥大化することを主な目的としたトレーニングですが、『感覚力』を鍛えるとは「どこの?」「何を?」「どうする?」ことを目的としたトレーニングなのでしょうか?

今回はそんな身体感覚力を高めるトレーニングの考え方をお伝えします。

身体操作トレーニングで鍛えるのは主に「脳」

筋トレは筋肉以外にも脳を鍛えようとする側面がありますが、それは「脳から筋肉への神経信号を強くする(発火頻度を高める)」ことがその主な目的です。身体を動かしてはいるので動作を学習するという側面でも脳を鍛えてもいるのですがフォーカスされているのはほぼ筋肉です。逆に身体感覚を中心に鍛えることを目的としたトレーニングにおいては筋肉は手段の一つであって目的ではありません。『身体で知覚された情報を脳内で統合し、それを運動というかたちで表出する。』その一連の流れのすべてを鍛え、様々な場面に応じて最適な動きが無意識にできるようになることを目的とするのが身体操作トレーニングです。

知覚→運動までの脳内のメカニズム

知覚された感覚を基に運動として表出するまでの一般的な流れは以下のようになります。

①感覚の受容 →②感覚情報の伝達 →③情報処理 →④運動の計画 →⑤運動の実行

①感覚の受容

身体外部および身体内部の刺激により、感覚受容器が感覚情報を受け取ります。例えば、視覚(光)情報は眼から、聴覚(音)情報は耳から、体性感覚(身体の内部からの感覚情報や身体の動きに関する情報)情報は皮膚や筋肉、関節などから受け取られます。

体性感覚情報の送信元である皮膚・筋肉・関節はその硬さ(伸張性・可動性・滑走性・弾性etc)によって感覚受容器の感受性が大きく変化します。(※詳細については後述します。)

②感覚情報の伝達

各種感覚受容器からの異なる感覚情報がそれぞれ異なる感覚神経系の経路を通り、脳の特定の部位に到達します。視覚情報は視床や視覚野へ、聴覚情報は聴覚野へ、体性感覚情報は体性感覚野へ伝えられます。

③情報の処理

全身から送られてくる様々な感覚情報が脳内で統合、解釈され、意味を持つ情報に変換されます。この過程では、過去の経験や学習に基づいて情報が解釈されます。

基本的に無意識化で情報が処理されますが、それを意識下に取り出して感覚の「認識力」を高め、どのような場面でどのような感覚が得られると適切な運動に繋がるのかを学習することが可能です。

④運動の計画

脳内で処理された情報をもとに、運動が計画されます。計画されるものの詳細は主に以下の5つです。

1. 運動の種類と目標:どのように動き、どのような状態になることを目標とすべきかを計画します。例えばランニングをする場合、歩行と比較してより速く連続した動きを計画することとなります。

2. 運動の強度と速度:計画した動作に応じた筋肉の収縮パターンを調整します。

3. 方向と位置:自分自身の現在位置(空間内の位置だけでなく、身体各部位の相対的な位置関係も含む)また力を加える対象物(ボールなど)の位置・方向に応じて、どのような方向へ関節を動かし移動すればよいのかを計画します。

4. タイミングと連続性運動のリズムに合わせて適切なタイミングでの筋収縮、関節運動を生み出し、動作の繋がりを保ちながらスムーズで滑らかな動きを作り出します。

5. 適応性と修正:運動の計画は絶対的なものではなく、状況や環境に応じた変化・修正が常に可能な適応的なものです。これにより相手の動きやプレイフィールド内の状況に応じて適切な戦術や動きを計画し、必要に応じて修正が可能となります。

これらの要素がすべて組み合わさり、脳内で運動が計画されます。運動の計画は、脳の運動野や前頭前野などの部位で制御され、運動の実行に必要な神経信号が生成されます。

⑤運動の実行

運動計画に基づいて中枢神経系から運動神経を介して筋肉に信号を送り、全身の筋肉が収縮し、関節運動が行われることで運動が実行されます。

ここまでの「①感覚の知覚」から「⑤運動の実行」までの一連の流れが全身において常に繰り返されています

脳内のキャパシティを増やす。

この一連の流れの中のそれぞれのキャパシティ(容量)を増やしていくのが身体操作トレーニングです。それはパソコンにおけるメモリ(情報処理容量・速度)とハードディスク(記憶容量)の両者を同時に増設していくような作業です。

適切な動作が遂行できるようになるために、感覚受容器の感受性を高め、受容量を増やし脳内で情報処理できる総量を増やしながら処理速度を速める。そして様々な動作における適切なタイミングの掴み方を身につけ、動作間のスムーズな繋がりを形成する。このようにトレーニングによって新たな運動経験を学習し積み重ねることで、新しい運動パターンを作り出すだけでなく、癖づいた運動のパターンも修正することが可能となります。

感覚として知覚されるのは『変化量』

触れ続けていると知覚されなくなる触覚。

着ている服、メガネ、つけているアクセサリーどれもじっと動かないでいるといつの間にか身に付けていることを忘れている、つまり意識に上っていないのではないでしょうか?

そして身体を動かした時に意識を向けると改めて服を着ていることを感じる。しかし身体を動かしていても他のものに意識を向けていると服を着ているということは意識しない。よくよく思い返してみるとそんな感じがしませんか?

感覚とは変化があったときに初めて知覚され、意識を向けて改めて認識することができるものです。つまり変化を変化として感じられない状態は、感覚受容器の感受性が鈍化している状態であり、変化しているはずなのに認識できない場合は意識の向け方を誤っているということです。体性感覚における感受性は受容器そのものの問題以上に、受容器周辺の環境の問題が大きく影響しており、意識の向け方についてはこれまでの(運動)経験が影響しています。

ケア、トレーニングによって変化を変化として感じられる知覚の閾値を下げる、つまりほんの僅かな変化も知覚し意識化できるような身体感覚に繊細な身体を目指しましょう。

※意識できるものが全てではなく、むしろ無意識下で処理されているものの方がその大半です。この無意識下での知覚・情報処理を意識下に取り出し修正するのが感覚に対するトレーニングとしてのアプローチ方法です。

脳はまっすぐをまっすぐと感じていない

脳は身体の全てを知っている。そのようなイメージを持ちやすいですが、感覚情報として脳が認識しているものは前述の『変化量』です。では何を基準に変化を感じているのか?というと、それは「慣れ親しんだ身体の状態」からの変化量です。そして脳はその慣れ親しんだ状態を最もニュートラルな状態(どちらにも傾いていない状態、つまり姿勢においてはまっすぐな状態)と認識しています

このことから姿勢保持や動作においてどのようなことが起こるか?というと、普段から猫背の人は猫背の状態をまっすぐに、反り腰の人は反り腰の状態をまっすぐな姿勢と認識してしまうということです。猫背の人が姿勢をまっすぐな状態にすると逆に反り過ぎているように感じ、反り腰の人が姿勢をまっすぐな状態にすると逆に猫背になったように感じるのです。

これは背骨以外にも腕や脚の状態においても同じことが言えます。自分自身が頭の中で思い描いているまっすぐは、実際にはまっすぐではないことがほとんどです。そもそもまっすぐとはどういう状態なのか、どういう状態が理想なのかという問題がありますがそれは以下の記事で解説しておりますので是非参考になさってみてください。

理想的な姿勢・動きとはどのようなものかは頭で理解するだけでは身につかず、トレーニングなどで実際に身体を動かして『感覚的に』訓練・修正していかないといけないのです。

運動感覚に最も重要な『筋紡錘』

運動感覚の中でも「筋肉の伸び縮みの感覚」をつかさどっているのが筋紡錘です。筋紡錘は骨格筋の中にあり、筋線維の間に埋め込まれるように存在しています。

この伸び縮みの感覚を脳に送ることで筋肉の張力を調整し、過剰な筋収縮が起こらない、逆に過剰に脱力しすぎない適切な状態を保ち続けることができます。また筋紡錘には筋肉が急激に引き伸ばされたときに生じる「伸張反射」を生じさせる働きもあります。特にスポーツ動作など素早い動きは伸張反射の連続であり、この筋紡錘が正常に機能していることはパフォーマンスを高める上でも非常に重要な役割を果たします。

筋肉がコリ固まると変化量が減る

しかし筋肉が凝り固まりFascia(ファシア,筋膜)が癒着すると、筋肉が伸び縮みしにくくなると同時に筋紡錘の感受性、伸張反射の発現が低下します。すると運動の繊細な調整がしにくくなり、運動のスピードも低下します。

コリ固まると筋肉を縮めても(収縮させても)、伸ばしても(ストレッチしても)痛いのはファシアの癒着が痛覚刺激をつかさどる神経を引っ張って刺激してしまうからです。そのような痛みがある場所は、コリを感じていなかったとしても癒着が存在しています。このような状態で身体を動かしても感覚の感受性が低く、身体も適切に扱いこなせないため、効率の良い動作の習得は難しくなります

筋肉が緩むと変化量が増える

これとは逆に筋肉周辺の癒着を取り除き、コリを軽減させ緩んだ状態に戻すことで、鈍くなった感覚を取り戻すことが可能です。筋肉がスムーズに伸び縮みするようになると、筋力が発揮しやすく柔軟性が高まりやすいだけでなく、身体感覚が繊細になりやすく身体を上手く扱いこなすことが可能となります

癒着の発生を最小限に抑え、筋肉を凝り固まらせにくい姿勢や動きを身につけることが動きやすい身体を維持し続ける秘訣です。

感覚力を高めるとは、身体の解像度を高めること。

動きが雑で荒く、身体を大きなパーツの集まりとしか感じられない状態が「身体解像度が低い」身体を細かく一つ一つの骨まで感じられる、身体各部位がどの方向にどのように存在し動いているのか繊細に感じられるような状態が「身体解像度が高い」と定義します。

身体解像度が低いと感覚力の低さから身体の微調整や修正ができにくく、俗に言う「運動音痴」な状態となり、逆に身体感覚力が高まると身体を繊細に操ることが可能となるだけでなく、その解像度の高さから身体内の情報だけでなく身体外の環境からの情報も知覚しやすくなり「運動神経が良い」状態となることができます。

運動が稚拙で粗雑な場合、解像度が最も低くなりやすいのが『体幹』です。体幹部分の解像度の低さは、単に体幹が上手く扱えない以上に、腕や脚の動きが下手になります。筋トレとして考えたときに、腕・脚・体幹と分けて考えてしまいがちですが、身体を適切に扱うにあたっては体幹を介さずして単独で適切に扱えるものは一つもありません。つまり体幹が上手く扱えずして手足を上手く扱えるようになることはないのです。

感覚と動作を一致させる。

ではどうすれば身体を繊細かつ高効率で扱えるようになるのか?それは効率良く身体を動かせたときに得られる感覚をベースに様々な動きを構成していくことで可能となります。

その感覚のもとになるのが、『軸感』、『バネ感』、『脱力感』、身体各部位の動きの『連動感』、動作と動作の間のスムーズな『連続感』、『リズム感』などです。これらは良い動きの中での感覚を通して身につけていくより他ありません。

身体の感受性を高めた上で、実際の動作の中で適切な身体の扱い方ができているときの感覚を多種多様な動きを通して身につけていく。言葉での表現は簡単でも、実践するとなると頭も身体もフル活用した上で更に時間もかかります。しかしこれらを通して身につけた動きは自転車を乗りこなせるようになるのと同じように一生モノとなり得るものです。

是非ともそのような身体づかいを通して脳も身体も扱いこなしていきましょう!

THE コツ™️ TRAINING 
堤 和也

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