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筋肉のコリを「ゆる」める方法とその考え方

筋肉のコリが引き起こす症状は動作時に不快感を生じさせるので、多くの方はこのコリを感じると様々な方法を用いて取り除こうと試みますが、それらの方法には効果のあるもの/ないもの効果が長期間持続するもの/短時間しか持続しないものと様々です。

これらはどのような差によるものなのでしょうか?

そもそもコリとは何なのか?

様々なアプローチ方法は、何をどうすることによってコリの解消を試みているのか?

コリを感じたら何をすべきなのかを具体的に考えてみましょう。

今回の記事は「筋肉のコリ」というものについて、かなり深く掘り下げながら解説しています。少し難しいところもありますが、適宜解説を加えていきますので詳しく学びたい方は是非最後までお付き合いください。

筋肉のコリとは何なのか?

「筋肉のコリ」とは、生理学・神経学的には筋肉の「異常収縮状態」「過緊張状態」とも表現され、本来、意図的に収縮・弛緩を行えるはずの骨格筋(※随意筋)が、意図的に弛緩できなくなった状態です。つまり常に力が入り続けたまま抜け出せなくなっているのがコリです。

このコリが生じている筋肉の周囲には高頻度で「Fasciaの癒着」が存在しています。

(Fasciaについては後述します。)

筋肉のコリが生じると、
「張った感じ」
「重だるい感じ」
・筋肉を伸ばしたときに「引っ張られる感じ」
・筋肉を縮めたときに「つまる感じ」
など様々な症状が出現します。

※上記症状はコリがある場合にのみ出現するものではありません。
筋肉のコリが症状の原因となっているのかを鑑別する際には、専門機関へご相談ください。

なぜ筋肉が凝り固まるのか?

臨床的に様々な悩みをお持ちの方の身体を見させていただく中で、筋肉が凝り固まる最大の原因と考えるものは、

①長時間持続する筋収縮
②高頻度で反復される筋収縮
③高負荷での筋収縮

の3点です。

①長時間持続する筋収縮

これは主に、同じ姿勢を保つ際に生じやすいコリのパターンです。

例えば、

肩こりの場合、猫背・巻き肩の姿勢をとっていたりする場合に、僧帽筋や肩甲挙筋、大・小菱形筋など肩甲骨の内側部分から肩にかけた部分の筋肉に持続的な筋収縮が起こることによって生じます。

首こりの場合は、主に頭部が胸郭(肋骨を中心とした上部体幹部分)よりも前方に位置していることにより、首の背面部分にある筋肉に持続的な筋収縮が起こることによって生じます。

つま先重心のまま立ち続けていると、ふくらはぎが硬くなるのも同じような理由です。

②高頻度で反復される筋収縮

これは、動きの中でいつも同じ筋肉を働かせることによって生じるコリのパターンです。

例えば、手を使って何か動作を行おうとするといつも肩が上がってしまうことによって肩から首にかけた部分にコリが生じる、指の先端を使いすぎることで手首から前腕部分にコリが生じる、手首が硬くなるなどです。

スポーツをしていて膝が痛くなる場合なども同様に、競技中に膝を使った動きを反復し、膝蓋骨(膝のお皿)周囲から太もも前面にかけてコリが生じます。

③高負荷での筋収縮

これは、普段の運動習慣レベル以上の負荷を筋肉にかけることによって生じるコリのパターンです。

俗に言う「運動後の筋肉痛」と同時に同じ部位にコリが生じるものです。

ウェイトトレーニングやマシントレーニングなどで同じ動作を反復してある特定の筋肉に負荷をかけるような運動をした場合には、②高頻度で反復される筋収縮と③高負荷での筋収縮の両方によってコリが生じています。

筋肉が凝り固まることの6つの弊害

上記のような筋収縮によってコリが生じることによる問題点は、主に以下の5つです。

①伸びにくい

筋肉の力が抜けていると、筋肉が引き伸ばされるような力が外部から加わったときに「スッ」と伸びてくれるはずのものが、力が入り続けてしまっているがためにスムーズに伸びてくれません。筋肉の柔軟性は単に筋肉だけの問題ではなく、筋肉の異常収縮という神経系の問題や、Fasciaの癒着なども大きく影響しています。

②縮みにくい

筋肉の力が抜けていると、筋肉を収縮させようとしたときに力を入れた分だけ筋肉が縮み、それが骨を動かし関節運動につながります。しかし力が入り続けていると、もともと力の入った状態からさらに力を入れないと筋肉が縮まないので、力が抜けているときに比べて関節を動かすために過剰な筋収縮を必要とします

③痛い

筋肉を伸ばすとつっぱる感じがして痛い、筋肉を縮めようとするとつまる感じがして痛い。伸ばしても縮めても痛いので、この痛みによっても①②のように柔軟性(関節の可動域)、筋力が低下します。

④血行不良・冷え・痺れ

血管や神経筋肉の「内部」や「隙間」を通り抜けるだけでなく、筋肉「周辺」にも張り巡らされています。コリのように力が過剰に入りすぎてしまっていると、血管を押しつぶし血流を阻害する可能性があります。また筋肉と皮下脂肪の間でFasciaの癒着が生じると皮膚の下を通る静脈やリンパ管が圧迫され、流れが悪くなります。

神経の場合は、神経周囲の筋肉の硬さやFasciaの癒着が神経を締めつける(絞扼する)ことによって、様々な神経症状を引き起こします。

⑤Fasciaの癒着を生じさせる

筋肉のコリとFasciaの癒着を関連づける研究論文にはまだ出会えていませんが、臨床的には非常に関連しているものと考えています。短期的に生じたコリで起こるFasciaの癒着は非常に軽度ですが、長期化すると高度な癒着となる印象です。このFasciaの癒着が、前記①〜④の症状の出現にも大きく関連しています。

⑥怪我や慢性傷害の原因となる

上記のように動きを阻害するものが身体の中に潜んでいると、その硬さを補うように別の部分へ負担をかけた動作を引き起こし、捻挫の原因となったり、別の筋肉に同じような硬さを引き起こす原因となります。

また硬さを残したまま、同じ筋肉にさらに繰り返し負荷をかけ続けることによって、肉離れや腱骨接合部の傷害(剥離骨折やオスグッド病など)を引き起こす原因にもなります。

コリの合理性

最近、筋肉、筋肉周辺組織の解剖学的構造に加え、進化生物学、代謝学など生物としてのヒトの身体についての理解が深まってきた中で、一つの考えが芽生え始めてきました。

それは、不快なものとして皆が解消しようと試みる「コリ」という症状には身体的な合理性があるのではないかということです。

コリが生じ慢性化していく際に、以下のような過程を取ります。

①筋肉に持続的な筋収縮もしくは高負荷・高頻度の筋収縮が要求される(筋系:意識下)
 → ②無意識に筋収縮が生じ、意図的に弛緩させることが困難となる(脳神経系:無意識化)
  → ③Fasciaに癒着を生じる(筋肉周辺組織系:身体構造の変化)
   → ④Fasciaの癒着がより強固となり、線維化する(筋肉周辺組織系:身体構造の変化)

筋肉にコリを出現させると前記のような様々な不快感生じさせますが、身体構造的には実はエネルギー効率が良い可能性があるのです。

エネルギーの効率化

そもそも筋収縮を起こすにはエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)が必要です。持続的・高負荷・高頻度の筋収縮にはそれだけより多くのエネルギーが必要となるため、そのような状態で毎回エネルギーを消費していると、エネルギーが枯渇する可能性が出てきます。

動物の進化の過程では、常に環境に適応できたものが生き残り現在地球に生存しているわけですが、常にエネルギーの供給源となる食糧が手に入ったわけではなく、生物の生存は常に飢餓との戦いであったのです。そのためエネルギー消費の効率化は生物が生き残るための最重要課題であり、分子・細胞レベルでも様々な点で効率化が図られています

上記の「持続的・高負荷・高頻度の筋収縮」に対して、生物がとる生存戦略として、エネルギー消費が必要となる筋収縮に頼るのではなく、エネルギーが必要ない筋外組織である結合組織(Fascia、筋膜)の硬度を高めて、「持続的・高負荷・高頻度の筋収縮」に対応しようとしていると考えても不自然ではありません。

そもそもFasciaは、組織間を蜘蛛の巣状にゆるく連結させているだけでなく、筋肉を包む筋膜組織、骨同士を繋ぐ靭帯組織、骨と筋肉をつなぐ腱組織などもFasciaと同じ構造から成り立っています。

鞭毛をもった単細胞生物の原始的な筋肉ではアクチンタンパクとミオシンタンパクのみの単純な構造で成り立っていたものが、進化の過程で現在のように筋肉内構造を複雑化すると同時に機能分化させることによってエネルギー効率を高め、高度な移動能力を獲得してきたのです。

不必要な過剰な筋収縮を、Fasciaの硬度を高めて対応している…

食料が身近に溢れ、スマホ、PCが生活の中心となることで身体を使って移動する必要がどんどんなくなり、長時間座位でのうつむき姿勢で全身が凝り固まりやすくなっている現代の我々の身体も、そのような生活が何千年と続けばそのような環境に合わせてまだまだ進化していくのかもしれませんね。

真にコリを解消させる5つの戦略

①Faciaの癒着除去

Fascia(ファッシァ)とは、身体内のあらゆる臓器を結びつける結合組織をいい、近年よく耳にするようになった「筋膜」もFasciaの一部です。このFasciaは、蜘蛛の巣状に全身に張り巡らされており、外力に応じて伸縮し形状を変えたりすることで、力や感覚といった情報あるいは様々な物質などを伝えるための巨大なネットワークシステムのことをいいます。

Fasciaの構造を視覚的に理解できる最良の書籍です。

本来、隣り合う組織や臓器同士はFasciaを通してゆるく結合しながらも、お互いが干渉しすぎず、けれども連絡は取り合っているような関係性にあるはずのものが、筋肉のコリなどをきっかけにFaciaが癒着すると、ゆるい結合がへばりつくような強い結合に変化し、組織間の滑走性が失われ、隣り合う組織・臓器に干渉しすぎるような関係性となります

Fasciaの癒着は、筋肉外の組織ですが前記のコリによる弊害の全てに影響しています。筋肉周囲をはじめ、皮下組織(皮下脂肪)、腱、腱鞘、支帯、靭帯、関節包、骨、内臓…など様々な組織間で生じ、滑らかな関節運動を阻害します。

このような癒着は、運動や簡単なマッサージでは取り除くことができず、癒着した組織を標的として癒着をリリースするようなアプローチが必要となります。例えば、徒手的にリリースを行う、フォームローラーやフロスバンドなどのツールを利用するなどです。

このFasciaに対するアプローチは、『物理的な阻害要因の除去』にあたります。

②筋収縮の反復

繰り返しになりますが、筋肉が凝っている状態とは、神経学的には異常収縮(緊張)状態といいます。本来、意図的に収縮・弛緩を行えるはずの骨格筋が、意図的に弛緩できなくなった状態です。

※これを随意筋と呼びます。

筋肉を緩めるためによくストレッチが行われますが、臨床的に経験するのは「ストレッチをしても筋肉は緩まない」という事実です。ストレッチをすることで柔軟性は高まりますがコリを取り除くことは難しい印象です。

生理学的には、ストレッチによって腱紡錘に伸張刺激が加わることで脊髄反射レベルで筋収縮を抑制するように働くはずですが、臨床では脊髄反射以外の要素がコリの出現に影響を与えているということなのでしょう。コリは単純な「異常収縮状態」ではないということです。

そこでお勧めしているのが、「筋肉の収縮と弛緩を反復させるような運動に取り組むこと」です。コリやすい筋肉に力を入れては抜いてを繰り返すことで、筋肉が弛緩しやすい状態となります。例えば、背骨をくねくね動かす、手や足を振るように動かすなどです。そもそも理想的な筋肉の状態とは、筋収縮のon/offが常に繰り返されており、必要なタイミングでのみonとなり、不必要なタイミングではしっかりとoffできる状態であり、これを意図的に作り出そうとするのが反復収縮によるアプローチです。

この筋収縮を反復するアプローチは『神経学的な阻害要因の除去』にあたります。

③脱力の学習

コリを引き起こす最大の要因は意識的か無意識的かどうかに関わらず、「持続的な筋収縮」が起こっているということです。このような状態に陥ってしまっていることにまずは気づかなくてはならなりません。

ときに「私は肩こりを知らない。肩こりになったことがない。」とおっしゃる方がおられますが、そのような方の身体を触れてみると実は相当に凝り固まっていたということが珍しくありません。これは肩こりの状態かあまりにも日常化しすぎて、脳が肩こりがある状態をデフォルト(本来の当たり前の状態)として認識してしまっているために起こっていると考えると良いでしょう。

コリを知らないことは特別すごいことではありません。むしろ鈍感になってしまっていると考えましょう。持続的な筋収縮が起これば、筋肉のコリは誰にでも、どの筋肉にでも起こりうるものであり、例外はありません。

大事なのはコリ固まりそうなときに、それをなるべく早い段階で不快感として察知し、早期に解消させられることです。

コリに早く気づくためには、どうすれば良いのか?

まずは『力感』と『脱力感』との違いを認識すること。

『力感』とは、筋肉が収縮している感覚のことです。筋肉に力が入って硬くなり、その状態が続くと疲労しそうな感覚です。逆に『脱力感』とは、そのような感覚がない感覚です。

この違いを認識するには、脱力感、すなわち力感のない状態とはどのような状態であるのかを、言葉ではなく身体の感覚を通して理解する必要があります。また脱力感を得るためには、同時に軸感覚なども重要となり、この軸感覚を得るために効率的な姿勢の取り方、力の加え方などの理解も重要です。

この脱力の学習も『神経学的な阻害要因の除去』にあたります。

④姿勢の見直し

本来あるべき姿勢とはどのようなものなのか?どのような姿勢が理想なのか?

現代まで様々な議論がなされてきましたが、我々の到達した結論としては「必要最小限の筋収縮で保持できる姿勢」です。不必要な筋収縮を最大限無くすということであり、それはすなわち武術などで『骨で立つ』とも言われる姿勢です。この最小限の筋収縮で骨を最大限に利用して姿勢を保つことにどのようなメリットがあるのかを考えてみましょう。

「姿勢」と聞くと、そのほとんどの場合「静止姿勢」を頭に浮かべるかと思いますが、どのような姿勢であったとしても完全に静止することはありません。呼吸ひとつとってみても肋骨は常に開閉し、その肋骨の動きに合わせて背骨もわずかに動くのです。『骨は常に揺らぐように動いている』ということを前提として考えてみましょう。

では、骨が常に揺らぐように動いている中で、全身の筋肉はどのような状態であるべきなのか?

どこかの筋肉に力が入った状態のままになってしまっていると、その筋肉がつなぐ骨と骨の間では揺らぎが生まれません。一つひとつ別の骨として、それぞれ可動性を有するはずものが、筋肉の収縮によって繋ぎ止められてしまい2つの骨が「一つの塊」のようになり、自由な骨の動きが阻害されるのです。

骨が自由に揺らぎ、動けるようになるためには筋肉は常に弛緩した状態をベースとする必要があります。必要なときには収縮するけれども、必要がなくなればすぐに弛緩できることが筋肉としては理想の状態です。これが脱力感のもとになります。

それはまるで「筋肉という海の中に骨が浮かんでいる」ようなイメージ。

この脱力、揺らぎを前提とした姿勢保持には必ず『不安定さ』を伴います。

全身に力を入れた堅固な安定ではなく、不安定な揺らぎの中に安定を見出すことが重要です。不安定に揺らいでいるということは、常に全身の各部位で筋肉の収縮↔︎弛緩が繰り返されているということに他ならず、前記の「筋収縮を反復させてコリを取り除くこと」を姿勢保持の中で自然と行なっているということです。

このような状態で常にいられると、コリを起こしにくいだけでなく、柔軟性も高めやすく、いつでも素早く動けるような状態でいられます。

⑤動作の見直し

姿勢と同じように、如何に効率よく動けているかどうかが非常に重要となります。効率よく骨と筋肉を働かせて動くためには、動作に合わせて適切な位置関係に骨を置き、インナーマッスルを優位に働かせる必要があります。骨の位置関係が不適切かつアウターマッスルを基本とした動作では、強い力感を伴いやすく、強い力感は動作に不必要な筋収縮を伴いやすくなります。さらにこの強い力感を伴う動作を反復していると、この力感を発生させている筋肉にコリが生じ始めます

日常生活、スポーツの中で如何に効率よく、楽に、軽く動けているかどうかチェックしてみてください。力感のある動作を見直し、楽に動けるようになるとコリにくい身体に変化していきますよ。

筋肉を揉みほぐすだけではすぐに元に戻ってしまう最大の理由

筋肉の揉みほぐしは主に、筋肉に入った力を抜くこと、つまり異常緊張状態の緩和だけにフォーカスされていると考えると良いでしょう。

部分的にFasciaの癒着を取り除くような施術となっていたとしても、意図的に行なっていない場合が多いので、多くの場合癒着は残存したままです。残存する癒着は、コリを再発させる原因となります

またその場で筋肉の力が抜けても、その状態が保つ方法が身についておらず、かつ軽度のコリが生じた場合のセルフケアの方法についても知識がなければ容易に再発してしまいます。

そもそも筋肉がコリ固まる原因ととなる『姿勢』や『動作』が変わらず、これまでと同じ姿勢、同じ動作を繰り返していれば、時間の経過とともにまた同じようなコリの症状に悩むことになることは火を見るよりも明らかです。

コリをほぐしてもらっている時の感覚は心地よいものですが、その心地よさを感じたいがためにコリを作るのもおかしな話です。コリのない身体は非常に軽く、快適に動け、それだけで心地よいものです。

ここまでお読みくださって手に入れた知識をもとにTHE コツ™️ TRAININGの運動に取り組んで、是非ともそんな身体を手に入れてくださいね。

THE コツ™️ TRAINING
堤 和也

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