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ACL再建術後の取れない痛みの原因はコレ!

膝の靭帯損傷としてプロ・アマ問わず多い『前十字靭帯(ACL)損傷』。ACLが断裂すると手術が必要となり、半年以上の間競技を離脱しなくてはならず、その後のリハビリに難渋するケースも少なくありません。

特に競技できる期間が限られている学生や生活そのものが掛かっているプロスポーツ選手にとっては、いかに術後の経過が良好であるか、つまりいかに早期に痛みなく競技パフォーマンスを受傷前以上のレベルまで高めることができるかは非常に重要な課題です。

今回の記事ではその中でも術後残存しやすい痛みについて考えてみましょう。

ACL再建術とは?

前十字靭帯再建術とは、膝の前十字靭帯(ACL)を損傷・断裂し機能不全に陥った場合に、その機能を再建することを目的に行われる手術です。ACLが機能不全に陥ると膝が抜けるような不安定感(膝崩れ)が生じ、踏ん張りが利かない状態となります

※上図は犬の骨格らしいのですが、ACLの構造と機能はほぼ同様です。

ACL再建術では、内視鏡視下で損傷したACLを取り除き、患者の体内から別の組織(通常は腱)を取り出して、新しいACLとして膝に移植します。これにより、膝の安定性が回復し、再び正常な動きが可能となります。

手術による切開と癒着が生じる部位

ACL再建術において現在最も一般的な術式であるSTG法では、患者の体内から半腱様筋腱(SemiTendinosus)と薄筋腱(Gracilis)を取り出し、これらの腱を再建靭帯の材料として膝に移植します。(下図は脚を内側から見たもの)

この術式では、膝のお皿の下に関節内視鏡を挿入する切開創が左右2ヶ所(A,B)、移植腱を採取し脛骨に骨孔を作製するための切開創が膝下内側に1ヶ所(C)、膝のお皿の上外側に移植腱を大腿骨骨内に通すためのガイドワイヤーを貫通させた創が1ヶ所(D)の合計4ヶ所の傷があります。

これらの傷が皮膚表面だけでなく、関節内までどのような組織を切開して到達しているのかを見てみましょう。

(※1つの画像を使い回しているので矢状断面のズレがありますがご了承ください。)

関節内視鏡による侵襲(A,B)

関節内視鏡は、【皮膚(皮下脂肪)】を切開後、【外側(内側)膝蓋支帯】【膝蓋下脂肪体】【膝関節包】を貫通し関節内に進入します。

※膝蓋支帯:膝蓋骨を正しい位置に保ち、滑らかな関節運動をサポートするための繊維性の構造物。

※膝蓋下脂肪体:脂肪組織の塊で、膝関節にかかる圧力を吸収、関節構造に対する衝撃を緩和し、滑らかな関節運動をサポートする。関節液の分泌を促進する役割も果たす。

※膝関節包:膝関節を包み込むように覆っている結合組織の袋状の構造物。

移植腱採取と脛骨骨孔作製による侵襲(C)

膝下内側にある鵞足という部分につく筋肉であるSTG(半腱様筋、薄筋)を再建靱帯の材料として採取し、作製した移植靭帯(腱)を骨内に通すための骨孔(筒状の穴)を作製するための傷です。

ガイドワイヤーによる侵襲(D)

ガイドワイヤーは、関節内から膝蓋骨の上外側に向かって【大腿骨】を貫通後、【脂肪体】【膝関節筋】【膝蓋上嚢】【外側広筋】【皮膚(皮下脂肪)】を貫通し体外まで出てきます。

※膝蓋上嚢:膝関節包と繋がる滑液包。膝の屈曲運動に伴って動き、伸展時には2層の膜が1層になることで、膝関節(特に膝蓋骨)のスムーズな動きをサポートしている。

AからDまでのこれらの術創が名称のついている各層各組織で個別に修復されると良いのですが、実際には周辺組織を巻き込みながら治癒していきます。この本来くっつくべきでない部分がくっついてしまい組織間の滑走性を失わせてしまっているものが『創傷治癒過程における癒着』です。また術後の腫れ(浮腫み・浮腫)内出血(血腫)も傷の治癒過程とは別の二次的癒着を生じさせます。この癒着が術後のリハビリで十分に取り除かれず、痛みの原因として残存するケースが多々あるのです。

ではどのような痛みの場合に、どの部分の癒着が関係しているのかを個別に考えていきましょう。

痛みの種類

膝を曲げると膝裏のスジが痛い

膝を曲げるときには、太もも裏から膝裏にかけて繋がるハムストリングスがたわみ、縮みます。しかし移植腱を取り出した膝裏内側の傷(C)周辺(内側ハムストリングス腱)や膝裏外側の外側ハムストリングス(大腿二頭筋)腱腸脛靭帯に癒着が生じていると腱が滑走せず膝を曲げたときに詰まるような痛みが生じます。

膝を曲げ伸ばしするとお皿の下が痛い

お皿の下の術創部が痛む場合は、A・Bの関節鏡による傷周辺の癒着が原因となっている可能性が非常に高いです。この部分は表層から[皮膚(皮下脂肪含む)→膝蓋支帯→膝蓋下脂肪帯→関節包→関節内]まで傷が繋がっており、本来、膝の屈伸運動に合わせてお皿が上下に動くとそれぞれが滑り合い、動きを受け流すのですが、これらの層間での癒着が生じると滑走不全を引き起こし一塊となって動くような状態となります。すると滑走性と同時に伸縮性までも損なわれ、膝を伸ばすときには詰まるように痛み、膝を曲げたときにはうまく伸びることができず突っ張るように痛みを生じさせます。

癒着は組織が伸びる方向にも縮む方向にも滑走性を損なわせるため、屈伸のどちらの方向に動かしても癒着の生じている部分が強く引っ張られ痛みが生じるのです。

膝を曲げるとお皿の上が痛い

この部分はガイドワイヤーによる傷膝蓋上嚢の癒着によって硬さが生じ、曲げたときのツッパリ感と同時に痛みの原因となっているケースが多くあります。上記の関節鏡の傷による痛みと原理的には同じです。

走った時の着地が痛い
体重をかけて踏ん張ると痛い

走るとき前脚が地面に着地するタイミングで僅かに膝が曲がり、クッションのように着地での衝撃を受け止め次の動きへと繋げます。膝下の術創部(A,B)に癒着があるとこのタイミングで瞬間的に癒着が強く引っ張られることで痛みが生じます。

膝下ではなくお皿の上で痛みが生じる場合は、膝蓋上嚢そのものの癒着や大腿直筋・中間広筋・膝関節筋などの癒着が原因となっている可能性があります。

またお皿の上外側の点のような傷(D)は大腿骨・膝蓋上嚢・外側広筋を貫通しており、踏ん張る際の太もも前の力がこの癒着を引っ張り痛みを生じさせます。

皮膚を動かすだけでは不十分

このように癒着は皮膚表面から見える部分だけでなく、術創が到達している深層部分まですべてにおいて起こり得ます。「皮膚が動いているから癒着の問題はない」わけではなく、深層の組織間の癒着が痛みの原因となっていないかしっかりと確認しましょう。

但し、これらの関節構造に対して深く理解のあるセラピストでないと触れてもわからないかもしれません。現在リハビリ中で上記のような部位の痛みが取れずにお悩みであれば担当のセラピストに相談し、癒着の有無を確認してもらい、癒着が残存しているようであれば取り除いてもらいましょう。もしもどうしても改善が見込めない場合は、是非一度カラダ Design Lab.へご相談ください。

関節内運動構造を正常化せよ

上記であげたものはあくまで一例であり、他の様々な部分でも癒着が生じうる可能性があります。外見的な見た目以上に膝関節内の構造は非常に複雑かつそれらが精密に機能して正常な膝の動きを作り出しています

膝関節の組織構造が問題なく動く場合、どのような組織がどのように動くのかを詳細に理解した上で初めて、どこの動きが悪く癒着(滑走不全)を引き起こしているのかが見極められるようになります。是非とも正常な膝(手術していない膝)と比べた時の違いを色々と探してみてください。そして、正常な膝と異なる部分の硬さを可能な限り取り除き、関節内組織の動きを正常化させましょう!

ACL再建術後、絶対に獲得しておきたい能力

さてACL再建術後は医学的な管理下で様々なリハビリ的な運動、トレーニングに取り組んでいくことになります。その間は必ず医師と理学療法士の指示に従ってリハビリを進めてください。間違っても個人的な判断でトレーニングなどに取り組まないように。取り組んでみたいものがあれば必ず担当のセラピストに相談してみましょう。

以下で紹介している記事では、競技復帰前もしくは競技復帰後に再断裂を引き起こさないようにするために、絶対に獲得すべき股関節を利かせた踏み込み動作のコツをご紹介しています。スクワット・ランジトレーニングに是非活かしてみてください。

カラダ Design Lab.
代表 堤 和也

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