関節の最終可動域はなるべく使わない
次に関節を保護するという観点から考えます。
車のハンドルをイメージしてみましょう。

ハンドルを最後まで回し切ってしまえば、カツッとハンドルの動きが止まり、これ以上回せないことが分かります。この状態が関節可動域の最終域のイメージです。
通常運転している際に、ここまでハンドルを切ることは滅多になく、最終域の手前でまだ動ける余力を残しながら動くことで、常に柔軟に対応できる状態を維持し続けているのです。カツカツとハンドル回し切るようなことを続けているとハンドルからタイヤまでの動きの継ぎ目になる部分が摩耗し故障しやすくなるのは何となくイメージできますね。
ヒトの関節も同様に、関節可動域の最終域(今回の場合は伸展最終域)では関節を構成する筋肉以外の組織の受動的な硬さで動きが止まります。このような筋収縮が弱まった状態で関節に力が加わると、筋肉の弾性で負荷を受け止められず筋肉以外の関節構成体を損傷させる原因となってしまうのです。

運動連鎖による力の伝達効率が低下する
さて、肘・膝を伸ばし切ってしまうと力が弱まり、関節そのものを痛める可能性があることが理解できたところで、最後に「運動連鎖」という観点から考察してみましょう。
わずかに曲がっている状態が最も強い。
『肘』を伸ばし切ってしまうと肩が上がりやすくなります。肩が上がると脇を締めることが難しくなり上腕骨から肩甲骨、体幹(胸郭)への伝達も弱まるため壁を押す力が弱まってしまいます。

また『膝』を伸ばし切ってしまう場合も同様にお尻が突き上がって(骨盤が過度に前傾して)、お腹の力が抜けてしまいがちになります。お腹の力が抜けると、地面から得た力を上半身に伝えることができず結果的に壁を押す力が弱まってしまいます。

肘も膝もほんの僅かに曲げておくことで関節に「タメ」を常に作っておきましょう。するとどんな状況にも対応可能な強い腕・脚になります。
関節への求心力を最大化せよ
基本的に身体を動かすということは骨を動かすということ。そして骨を介して力・動きを伝達するには、1つの骨から次の骨、また次の骨へと余すことなく力を伝えられるか否かが効率の良い身体の使い方にとって非常に重要となります。
骨が隣り合ってつながる関節では、骨の表面はツルツルの軟骨で覆われており、筋肉がない状態では小さな力でいとも簡単に動いてしまう非常に不安定な構造をしています。この関節を安定させ、適切に力を伝達させているのが筋肉の働きです。
関節には必ずその関節を挟むように両側に筋肉が存在します。今回は簡単に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)と後ろの筋肉(ハムストリングス)に分けて考えてみましょう。大腿四頭筋は膝の伸筋であり、筋肉が縮むと主に膝関節を伸ばす方向に働きます。逆にハムストリングスは膝の屈筋であり、筋肉が縮むと主に膝関節を曲げる方向に働きます。


これら屈筋・伸筋は単に関節を曲げ伸ばしするだけでなく、両筋が同時に収縮することによって、遠位(遠く)の骨を近位(近く)の骨に押し付けるような力[関節間力・求心力]を発生させます。この関節間力によって関節が安定した状態(求心位)を維持したまま関節運動が行えるのです。
ではこの屈筋と伸筋のバランスが崩れてしまった場合どうなるでしょうか?
以下の左図のようにわずかに屈曲している「軽度屈曲位」の場合では、前後の筋肉でうまくバランスを取って関節を安定させられるのに対して、右図の「完全伸展位」の場合では大腿四頭筋の活動がハムストリングスに比べて過剰になりやすく、前後の筋活動のバランスが崩れます。膝関節の前側から引っ張る力が過剰となることで、求心位が取れず関節の前方に荷重がかかり、関節後方の軟部組織は過剰に引き伸ばされることで怪我を引き起こす原因となってしまうのです。

この「軽度屈曲位」を身につけるには、関節の適度な抜け感を感じ取れるようになる必要があります。