昨今、プロゴルファーのティーショットを足圧測定器で測定した際に、強い踏み込みの直前(切り返し)に一瞬荷重が減っていることが分かり、このティーショットでの抜重が注目されています。
今回の記事では古武術で言われる『抜重』をゴルフのスイングにおいて活かすタイミング・効果とその習得方法に対する考え方についてご紹介します。
足圧はどのように変化するのか?
https://www.alba.co.jp/articles/category/lesson/post/g_ttdx4tuao/
上記サイトで紹介されている図を模式的に表し直したものです。プロとアマチュアと1例ずつのデータしかないので、これだけの情報で抜重を語るのは少し乱暴な気もしますが、このプロ・アマの差から考察できることは多々あるのでまずは少しこのデータを見ていくこととしましょう。
縦軸が体重に対する足圧の割合、横軸が時間です。
プロはクラブヘッドが最も高い位置にある(Top of swing)その前後のタイミングで荷重が30%減っており、その後 体重の2倍以上の荷重が掛かり、インパクトを迎えます。このダウンスイングの時間がアマチュアと比べて非常に短く、短時間でスイングの一連の流れが完結しています。
アマチュアは荷重の増減の変化に乏しいだけでなく、スイング時間も長く間延びしていることが分かります。
抜重を活かすのはダウンスイングに入る直前の一瞬
本記事でお伝えする抜重とは、Top of swingの前後に足への荷重が30%程度減少する現象を指します。フォロースルーで地面からの反力が減るのは、地面を踏み込んだ結果身体が伸び上がり重心が上昇するためであって、今回の記事で解説する部分ではありません。これはジャンプすると身体が宙に浮くのと同じ原理です。踏み込み直前に地面反力が減少するのが抜重と考えて解説しています。
このダウンスイングに入る直前の一瞬の間に抜重ができることで得られるメリットは以下の2つです。
地面への踏み込みが強くなる
単純に地面を踏み込むだけでは、地面に加えられる力はほぼ体重分のみですが、抜重によって身体が瞬間的に宙に浮くことで、身体が自由落下するため体重に加えて重力加速度分の重量が追加されます。
地面を踏み込む力が強くなるとその分地面から得られる反力も大きくなるため、その力をスイングに活かすことができるようになります。
ダウンスイングの勢いが増す
クラブヘッドが頭上にある状態で抜重をすることで、クラブヘッドをその位置に残した状態のまま骨盤を中心に落下する力が生まれ上半身の捻れが強くなります。
抜重によって上半身が瞬間的に強く捻ることができると、体幹部分の筋肉が瞬間的に強く引き伸ばされ、回旋系伸張反射(RSSC)を発動させるトリガーとなります。このRSSCは筋肉を非常に強く素早く収縮させるため、この力がスイングの力強さスピードアップに繋がります。
抜重によって足への荷重が直接的に減りますが、クラブヘッドが上方にある状態でのRSSCの発動が瞬間的に重心を引き上げることも、足への荷重を減らすことに一役買っていると思われます。
股関節を使いこなせないと抜重は不可能
抜重によって重心を落とすのは主に『骨盤』です。上半身を含めた骨盤を瞬間的に落下させる力を利用して地面を踏み込み、踏み込んで得られる反力をインパクトに利用する。この動きを扱いこなすには、骨盤と大腿骨を繋いでいる股関節が使いこなせていないとできません。
以下の記事で解説している股関節機能は最低限身につけておきましょう。
抜重をスイングに活かすには体幹と肩甲骨の柔軟性が必須
抜重による上方への運動連鎖によって捻れが強まる体幹と肩甲骨。
体幹でも主に肋骨と骨盤の間の脇腹の柔軟性は必須です。この肋骨と骨盤を繋いでいるのが腹筋群であり、この腹筋群の反射的な筋活動(RSSC)を引き出すためにはバックスイングした状態からさらに体幹を深く捻ることができるだけの柔軟性が必要です。
また脇を締めながら肩甲骨を大きく引き出すことも必要ですので、下の動画のようなかたち・動きが最低限取れるようにしておきましょう。
抜重しようと意識し過ぎてはいけない。
抜重がどのようなタイミングでどのように起こっているのかが理解できると、それをいきなりスイングの中で再現しようとしてしまいがちですが、抜重をスイング練習を通して身につけるよりも、まずはトレーニングレベルで扱いこなすことが重要です。
抜重という身体操作がスイング以外の場面で扱いこなせるようになったときに、スイングの中で自然と引き出されるようになることが理想です。
実際にスイングの中で抜重ができているかどうかは、あまりにも瞬間的すぎて意識することはできないもしくは相当に難しいのではないかと思います。抜重しようと意識すればするほど、タイミングがズレ、動きが硬くなってフォームが崩れます。意識し過ぎないように気をつけましょう。
※以前にピッチングにおける抜重を解説しましたが、野球のピッチングにおいては抜重そのものの時間が長いため実際の動作として見えやすく、意識もしやすいのですがゴルフはその動きが見えにくくあまりにも一瞬です。スイングにおいては全身の繋がりをしっかり感じておくと良いかと思います。
ゴルフはスイング練習ばかりしていれば良いもの?
あらゆるスポーツにおいて、その競技動作を構成している要素をトレーニングを通して身につけていくことが当たり前となっていますが、なぜかゴルフにおいてはそのようなトレーニングに対する理解が他のスポーツに比べて少ないように感じます。打ちっぱなしなどでもひたすら自分に合ったスイングフォームを追い求めていくようなイメージがあります。
「ただ筋トレをしてパワーアップせよ」という意味ではなく、ゴルフに必要な身体の扱い方に習熟するような身体操作トレーニングに取り組むべきです。体幹の柔軟性が乏しいままでスイングする時の身体のねじれが大きくなることはなく、股関節が固く上手く扱いこなせない方が骨盤を素早く動かすことができることはまずないと考えましょう。どんな「コツ」もその動作を成り立たせる身体が出来上がっているからこそ意味があり、効果が得られるものです。
では抜重がスイング動作の中で自然と引き出されるような身体を作り上げるにはどのようなストレッチ、トレーニングに取り組めば良いのでしょうか?
取り組むべきストレッチ・トレーニング
柔軟性を高め、スイングに必要な動きを身につけるためのポイントは『脇』・『体幹』・『股関節』です。
上記で紹介したものに加えて、下記のエクササイズにもしっかりと取り組みましょう。
上記の運動だけでも継続的に取り組めば、抜重が扱いこなせる身体に少しずつ変化していくはずです。地味なエクササイズでも地道に丁寧に取り組むことが成長の鍵です。成長に近道はなし。がんばりましょう!
カラダ Design Lab.®︎
代表 堤 和也